生徒の力を引き出す「エンパワメントスクール」とは

エンパワメントスクール

今回は、大阪にある新しいタイプの高校、「エンパワメントスクール」についてご紹介します。

エンパワメントスクールとは

エンパワメントスクールとは、生徒が持っている力を引き出してくれる学校です。
「わかる喜び」や「学ぶ意欲」を引き出すための授業が行われ、しっかりとした学力と、社会で活躍できる力を身につけるため、新しい取り組みを行っています。

大きく分けて、以下の2つの特徴があります。

中学校の学び直しができる

エンパワメントスクールでは、1年生のうちは中学校の学習の学び直しをし、基礎が固まってから高校の学習内容に進む、という流れになっています。

中学の学習でつまずき、しっかりと理解できずに終わってしまうことは多いですよね。そのまま高校に進学すると、授業についていけなくなり、不登校になる可能性もあります。

また、中学で不登校になってしまったお子さんにとっても、高校で中学の勉強ができるというのは心強いですね。

一人ひとりの可能性を伸ばす

エンパワメントとは、個人や集団が本来持っている力を引き出し、湧き出させることを意味します。

エンパワメントスクールでは、「わかる授業」「おもしろい授業」「意見を出し合う授業」「ほんものに触れる授業」が行われるのが特徴。大学や専門学校・企業とも連携して、生徒の持っている力を最大限に引き出し、社会で活躍するための力をつけます。

エンパワメントスクールの授業の特徴

30分授業でつまづきを克服

中学の勉強の学び直し

1年生の間は、30分という短い時間枠で、つまずいたところを徹底的に学びます。毎日継続して学習することで、効率的に学力の向上をはかります。

習熟度別の学習

エンパワメントスクールでは、一斉に同じ授業を受けるのではなく、学力のレベルに合わせて習熟度別の授業が行われるのも特徴です。
一人ひとりに合わせて、得意科目はさらに伸ばし、苦手科目は着実に弱点を克服しますので、大学進学も可能です。

勉強が面白い!と思える教材

タブレットや電⼦⿊板をはじめ、映像やドリル教材も活用し「勉強が面白い!」と思える環境作りに取り組んでいます。

ソフトスキルを高めるカリキュラム

今は、知識を与えるだけの勉強ではなく、「社会で活躍するために必要な⼒」を⾝につけることが求められます。(ソフトスキル)

そのため、エンパワメントスクールでは、エンパワメントタイムという時間に、「自尊感情を高める」「コミュニケーション⼒をつける」「キャリア意識を⾝につける」「正解が一つでない課題に取り組む」ことをテーマにした学習が行われます。

資格取得のサポートが手厚い

生徒のやりたいこと、好きなことを大事にし、進路希望に応じた学習の機会が提供されます。
進学や資格取得にも力を入れており、大学受験に対応した科目や、資格取得に必要な専門的な科目が用意されています。

いじめ、問題行動を徹底排除

見過ごされがちないじめに関しては、徹底的に排除する姿勢が見られます。

生徒の安全や安心を第一に考えるのも、エンパワメントスクールの特徴です。

そのため、中学校や家庭、関係機関との連携を密に⾏い、⽣徒⼀⼈ひとりを組織的に見守る体制が整っています。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、進路⽀援コーディネーターなどのプロフェッショナルも配置されています。

(参考:大阪府 エンパワメントスクールの概要

大阪のエンパワメントスクール8校

大阪では、平成27年度からエンパワメントスクールの設置が進められ、現在では8校が登録されています。

ASISでも、エンパワメントスクールへの進学を検討している方がいらっしゃいますので、実際に職員が何校かに見学に行ってきました。

以下で、大阪のエンパワメントスクールの、特色のある取り組みについてご紹介します。

 

淀川清流高校

  • 外部講師の指導によるグループワークや外国人留学生との交流会
  • 画像編集ソフトを用いた地域の商店等と協働での広告作成
  • 公害・震災・生涯スポーツなど環境・健康に関する体験学習
  • 地域の学校との交流や、地域での清掃・緑化等のボランティア活動
  • 地域の方を招いた映像作品等の上映や、授業の成果発表

淀川清流高校ホームページ

 

和泉総合高校

  • タブレットPC等のICT機器を活用したグループ学習や討議・発表等の授業
  • 「保育実習室」における、保育の体験的授業
  • 資格取得や各種検定等の合格をめざした、きめ細かい学習のサポート
  • インターンシップによる短期就業体験(単位認定)
  • 保育・介護やものづくり実習等
  • 組織的な教育相談体制と、生徒指導体制

和泉総合高校ホームページ

 

布施北高校

  • 地元企業と連携して実施するデュアルシステムでの職場体験実習
  • 授業と実社会での『ほんまもん体験』を融合させた先進的なキャリア教育
  • 多文化共生の集い「高校生交流会」や母語によるスピーチ大会
  • 参加型人権学習
  • 進路の実現に必要な資格取得を積極的にサポート

布施北高校ホームページ

 

成城高校

  • タブレット端末や、電⼦⿊板等のICT機器を有効活用した授業
  • 工業系・商業系等の教育
  • グループ学習による「学び合い」
  • 全学年⼀⻫の早朝0限目学習と希望者対象の7・8限目授業
  • 組織的⽣徒指導体制
  • いかなるいじめも絶対に許さない⽣徒指導
  • スーパーバイザーと専⾨教員とが核となった組織的教育相談体制
  • 工業系・商業系等の資格取得や検定試験のための授業や補習・講習
  • 難関⼤学や、ハイレベルの資格試験・検定試験合格のための個別指導
  • 看護医療系進学をめざす⽣徒のための7・8限目授業
  • 地元企業との技術交流、地域施設等との連携
  • 公開講座やボランティア活動の実施

成城高校ホームページ

 

岬高校

  • 学校周辺の山や海や農園でのボランティア活動や環境教育を推進
  • 「府内唯一の天然の海岸を守る取組み」等、地域愛着や社会貢献を養う
  • 台湾の基隆女子高級中学と相互交流
  • 校舎までの約200段の階段に英単語のプレートを設置
  • 日常英会話力を高める授業
  • 小学校や福祉施設への英語紙芝居の出前授業
  • 学年職員室やフロアでの話し込み等の「寄り添う」生徒指導

岬高校ホームページ

 

西成高校

  • 「答えが一つでない地域の課題」について地域と共に考える授業
  • 地域の中⼩企業の経営者との交流会「社長さんに聞く!」
  • 近隣の⼩中学⽣と交流する機会を通して社会性を身につける
  • ボランティア活動など、地域に貢献できる体験授業
  • 地域に出て社会との関わりを実感できる体験型の授業
  • 2人担任制で生徒一人ひとりへのきめ細かいサポート
  • 「就職率 100%」の実績を生かした進路指導
  • 「介護福祉初任者研修」「漢字検定」「英語検定」などの資格取得サポート
  • 卒業生から実際の現場の話を聞き、仕事に対する姿勢を学ぶ

西成高校ホームページ

 

長吉高校

  • 多文化共生の拠点校として1年⽣で「ワールドスタディ」を開設
  • 近隣の⼩中学校対する出前授業(ゲストティーチャーとして⺟国の⽂化を紹介)
  • SSTを取り入れた「産業社会と人間」などの授業
  • 自分の得意なスポーツを通して「人とつながる力」を育む専修体育
  • すべての授業で、発表し自分の考えを表現するトレーニングを積む
  • 漢字検定、英語検定、ペン字検定、情報処理検定などの実⽤的な技能、資格の取得を支援

長吉高校ホームページ

 

箕面東高校

  • 週1回の事業所実習やマナー講座
  • 入学時から卒業時(入口から出口)までの充実したキャリアメニュー
  • 教師と生徒の対話を中心としたきめ細かな進路ガイダンス
  • 大学、短大、専門学校、社会人等の経験豊かな講師から深く学ぶ
  • 大学進学にも対応した演習中心の授業
  • ⽣徒の個性・進路に合わせた科⽬選択
  • 充実した教育相談室
  • 一人ひとりに応じた安心な居場所の確保
  • 生徒の個性に合わせたフレキシブルなカリキュラム

箕面東高校ホームページ

(エンパワメントスクールとして設置された年度が新しい順に掲載しています。)

エンパワメントスクールの評判

以上のように、エンパワメントスクールでは、各学校で学習においていろいろな工夫がされていることが分かります。

特に、地域に出ての活動や、自分たちで発表したり話し合いながら学習を進めていく方法は、生きた学びとして、生徒のもつ力をぐっと底上げしていくでしょう。

エンパワメントスクールは、まだ設立されて5年未満の学校がほとんどです。この取り組みに対し、大阪府が令和元年にアンケート結果を公表しています。

その内容によると

  • 基礎5教科の勉強をがんばれた
  • エンパワメントタイムは自分のためになった
  • 礼儀やマナー、敬語などが身に付いた
  • 進路決定率92.3%
  • 専門家によるサポートがよかった
  • 遅刻・欠席が大幅に減少

などの結果が出ています。

これにより、毎年受験倍率がどんどん上がっているエンパワメントスクールも出てきているようですね。

まとめ

今は、勉強のできよりも「社会で生きていく力」が必要な時代になってきています。エンパワメントスクールは、そんな時代にあった新しい高校として、これから成長していきそうな気がします。

ただ、発達障害児にとってはどうなのでしょう。

彼らはいろいろな能力を持っています。ただ、できないことや個々のこだわりも多いです。

そのできないことやこだわりを理解し、特性にあった適切なサポートをしてくれるのか。「子どもの力を引き出す」というのが、どの範囲でできるのでしょうか。

そこが私たちにとってはとても関心があるところであり、エンパワメントスクールに一番期待するところでもあります。